サブマリーナ「ジェームズ・ボンド モデル」について


 シリーズ第1作『ドクター・ノオ』から第4作『サンダーボール作戦』まで、 ショーン・コネリー扮するジェームズ・ボンドがつけていた時計については諸説ある。ロレックスのサブマリーナであることは映画を見れば分かるのだが、 問題はそのリファレンスナンバー(以下、Ref)がハッキリしていないということだ。
  特に大写しになる『ゴールドフィンガー』と『サンダーボール作戦』を見る限り、バンド以外は同じに見える。 『ドクター・ノオ』と『ロシアより愛をこめて』は革バンド、『ゴールドフィンガー』と『サンダーボール作戦』はナイロンのストラップで装着しているようだ。

 このストラップはNATOストラップと呼ばれるもので、最近のきれいな映像ソースから、以前までグレーだと思っていた部分がオリーブグリーン(深緑)に 近い色のように見え、さらにその左右に細い赤いラインが入っているというのも確認できるようになった。ただし色については視聴環境によっても左右されるので正確な判断は難しいのだが、 海外サイトでもこの黒×緑(+赤)をボンド仕様NATOストラップレプリカを売っているところもあるので、やはりグレーよりは緑がより作品の仕様に近いのかもしれない。

 なお写真からも分かる通り、このストラップの幅は純正ブレスより狭いものをつけており、とある雑誌ではこれがハズシの美学、おしゃれとも評されていた。

Dr.No ロシアより愛をこめて
ゴールドフィンガー サンダーボール

さて本題のモデルについてだが、劇中で大写しになる場面から分かることは

  • 5分刻みのベゼル
  • 大きめのリューズ(デカリューズ!)
  • 初期なのでリューズガードがない
  • 文字盤の表記が2行
  • メルセデスハンド(ベンツ針!)
ここで普通ならいくつかのモデルをとりあげて、真のボンドモデルはどれか?と検証していくのかもしれないがここではそれはやらない。
ここでは時に誤解を招くこともあるボンドモデルとして扱われているものについて書いてみたい。


一応、Ref.6538って説が有力らしいよ!

ボンドモデルではないかと雑誌などで取り上げられる機会が多いモデルは

 6538、6536、5510、5508

とまあ、ざっとこんなもんだろうか。ただ、今日のロレックスもそうだが同じRefナンバーでも見た目や中身(ムーブメント)が 異なる場合もあるので、同じRefだからといってひとまとめにしてしまうわけにもいかないということも頭に入れておかなければ ならない。それはともかく、雑誌などによれば検証していくと6538が一番可能性が高いとのこと。それで一般的には6538がボンドモデル“ではないか” と言われている。


考え方の違いか?

 何をもってボンドモデルとするかは、解釈の仕方で違ってくるが、三十数年も前の映画のためはっきりとした証拠があるわけでもなく、 最近の作品のオメガとのタイアップのようにメーカーがモデルを公表していたわけでもないため判断が難しい。 私としては劇中でボンドが使用したモデルと同じRefナンバー、同じ仕様(外観・他)のものということで考えている。

だが考え方の違いで、非常に曖昧な形で「ジェームズ・ボンド モデル」と称される物も存在する。

Refナンバーの1人歩き

6538がボンドモデルというのが定説になってしまっているため、 同じ6538でも劇中でボンドが使用していたものとは明らかに違うもの(ベゼルの刻みなど)でも ボンドモデルとして紹介している雑誌もたまにある。

また、劇中のものとは微妙に異なるが同じRefということで、これを「ジェームズ・ボンド モデル」として 売っているショップも存在する。ボンドモデルということと、この初期のサブマリーナが稀少品であることもあって80万近い値段がついていたりすることもある。

これらは「ボンドモデルと言われているものと同じRefナンバーのもの」とでも言ってほしいものだ。

デカリューズ

デカリューズとは一般的なリューズより大きい、オーバーサイズ(8mm)のリューズの通称である。 映画を見れば分かるとおり、ボンドがしているサブマリーナのリューズはデカイ!
このデカリューズのモデルは数が限られてはいるものの、5510にもデカリューズのモデルが存在するため、 これを根拠にボンドモデルというのは難しい。

それでもやはり一部の雑誌やショップなどでは理屈抜きで“デカリューズ”というだけで 「ジェームズ・ボンド タイプ」などと曖昧な言い方をしている場合もある。 騙すつもりはないんだろうし、実際に雑誌のボンドモデルの特集の時に引き合いに出されるわけだから、 そう言っても間違いではないんだろうけれど、買ってから映画を見て「うーん、なんか違うかも・・・」 なんてこともありうるのでちょっと考え物だ。


イタリア説とイギリス説

 よく雑誌等でボンドモデルを説明する際に「イタリア説とイギリス説」とか「イタリアの主張、イギリスの主張」などと 書かれることがあるが、これらは全部元ネタが同じなんじゃないか?なんて思ってしまう。
たとえば私の手元には96年の『ウォッチアゴーゴー』誌があるが、この号は

  燃える論争 ロンドン VS ミラノ これがジェームズ・ボンド [サブマリーナ] だ!

なんて特集が組まれている。
これはどうやら世界的に有名なロレックス研究家、ジェームズ・ダウリング氏の著書を参考に書かれているようだ。 「参考文献:JAMES BOND A CELEBRATION By Peter Haining / Planet Books 1987」となっている。007シリーズの原作者イアン・フレミングについてや、ちょっとした映画の話があって、 あとはイタリアの主張とイギリスの主張ということでボンドモデルに論争が起きてる!みたいなことが書かれている。
で、その主張ってやつだが、

 イギリスはリューズの大きいモデル(Ref.6538)をボンドモデルとしているのに対し、
 イタリアはリューズの小さいモデル(Ref.6536)をボンドモデルと言っている

っていうこと。でもそんなこと映画を見れば一目瞭然、どう見ても大きいでしょ・・・
だからリューズの大きい小さいを巡って論争を起こすのはおかしいと思うんだけどなぁ(苦笑)

 そんなわけでこのヘンテコな論争が起こること自体不思議なんだが、いまだにこのことを書いている雑誌もあったりする。 最近はそれも少なくなって、最初から6538だって書いてるのも多いけど、その写真はインデックスが3、6、9の数字だったり、 ベゼルが5分刻みではなく15分までが1分刻みのものだったり、ベゼルの上の三角マーク?が赤いやつだったりする。
たしかに定説となっているモデルとは同じRefなんだけど、劇中のものとはちょっと違うから

 「劇中で使われているものとは若干仕様が異なる」

ぐらいの注釈をつけてくれればいいんだけど、そこまで要求するのは私ぐらいか?(笑)


じゃ、結論は?

 今となっては資料もないし、ハッキリと確定することは難しいだろう。ただ、雑誌や国内外のWebでそうだとされているモデルや、 消去法で残ったもので一番可能性が高いモデル、一番名前の出てくるモデルはRef.6538である。また未確認だが 数年前の雑誌に映画と同じ仕様(5分刻みのベゼル・クロノメータ表記の無いもの・8mmリューズ)のRef.6538が掲載されたという話も聞いている (だとするとかなりのレアものだ)

 といっても数十年を経た今となっては裏付けをとることは不可能に近いし、他に皆が納得するような材料もない。だから誤解を招かないように「Ref.6538だとする説が有力だ」などにとどめておくか、 「Ref.6538、6536、5510、5508などボンドモデルには多くの説がある」というように 特定できないとする言い方のほうがいいんじゃないかと思う。

 そもそも、このボンドモデルをめぐる様々な説は、映画とまったく同じ仕様というモデルはほとんどみかけない ということに端を発している。まあ仮に将来的に新事実が明らかになってRefナンバー特定できたとしても、 まったく同じ物がどこでも見つけられるというわけにはいかないだろうから、結局今のRefナンバー1人歩き状態と何も変わらない のかもしれない。

 なんだか支離滅裂な文章になってしまったが、とりあえず覚えておいて欲しいのは

  • 諸説あるがRefナンバーはRef.6538とする説が多い
  • 同じRefナンバーのものでも見た目・仕様が若干違う場合もある
  • 劇中のものと同じ仕様のものはほとんどみかけない
  • 雑誌やショップなどで“ジェームズ・ボンド モデル”と称されているものは
    劇中のものとは見た目は必ずしも同じではない

 最後が一番言いたいことかも。



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